特定非営利活動法人
藤沢相談支援ネットワーク

皆既月食と生命と

先日、1580年7月以来442年ぶりに皆既月食と惑星食が同時に発生し、次回は2235年になるという事実を知った。その日は何度も家の外に出て、それまで黄色に光っていた月が赤みがかっていくのを見た。自分が見ている月を、ずっと昔のひとたちも見ていたのを想像すると、天体ショーよりも連綿と人間が生活を続け、その命をつないできたことに、何とも言えない感情が込み上げてきた。そして、ふと吉野弘さんの『生命は』を思い出した。この詩は、私が学生だった頃、教育関係の本を読み漁っているときに、偶然福島智さんの文章で引用されているのを見つけたものである。この人間観は、これからも私の中に生き続けるだろう。

生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべが仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない

吉野弘「生命は」