特定非営利活動法人
藤沢相談支援ネットワーク

信じることを諦めない

 今から44年前、私が福祉の仕事を始めた「星の村共同作業所」の4人目の村民は、18歳で児童福祉施設を卒園して村民第1期生になった「オッ君」でした。
 今では利用者をニックネームなどで呼ぶことはあり得ないことですが、当時は「村長」と呼べば「なあに、おとっつあん」と帰ってくるような、とてもフランクでイーブンな関係の中での共同生活の仲間でした。
 まだ作業所が建っていなかったので1200坪の畑の中でパラソル1本とゴザ1枚だけが村のシンボルであり村民のいこいの場でした。
 利用者の村長や助役や生活班長らの村民と職員も一緒に荒れ地を耕しながら、開拓者魂を燃やした開墾の日々の始まりでした。
 「オッ君」は毎朝畑に来て、ゴザに横になりながら村民みんなが畑を耕したり、水撒き用の井戸掘りをしたり、たい肥を一輪車で運んだり、草取りをしたり、野菜の収穫をしたりして働く姿を眺めながら過ごすのが日課でした。家が建ってからも作業には参加しないでみんなの動きを見るのを仕事にして過ごしていました。ほかの村民全員も、それが彼のポジションと認識していました。
 1年後に家が建ってから彼の可能性を拓いていこうと言うことで、トイレの習慣を身に付けられるように訓練を開始しました。約半年間の格闘が続きましたが、見事にオムツを卒業することが出来ました。
 それからも、作業こそしませんでしたがみんなと一緒に音楽を楽しんだりして、みんなの輪に入って楽しんでいる様子でした。
 このスタイルでずっと暮らしていくのかなと、みんなが思っていて10年が経ったのですが、いつもと同じように作業に誘うと急に一輪車の作業を始めたではありませんか。
 一輪車はバランスをとるのが難しいのにとても上手いんです。
 みんな、その様子を見て呆気に取られて、顔を見合わせて、拍手喝采でした!
 その日から一輪車の名手となった「オッ君」はとても真面目な働き手になりました。
 10年間、ただ寝っ転がって見ていただけでなく、しっかり学習して虎視眈々とデビューの日を待っていたのかもしれません。

「オッ君」は私たちに人の可能性は無限大で、いつでも変われる力を持っていること、そして何よりも「信じることを諦めないこと」を教えてくれました。
以来、「オッ君」は私の福祉の大先生です!