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ある日の本屋で。

読書日記 『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン 著 上遠恵子 訳 川内倫子 写真 (新潮文庫)

「きれい・・」
思わず心の声が飛び出してしまった瞬間に、私は一冊の本を手に取っていた。あまりの本の装丁の美しさに目を奪われたのだ。新潮文庫から出版されている、『センス・オブ・ワンダー』。
著者は環境保護に先鞭をつけた女性生物学者という。何やら、自然環境保護に関する啓発本なのかと思いながらも、本のビジュアルに魅了され購入した。特段内容に興味があった訳ではないが、いわゆる本の「ジャケ買い」をしたのだ。
 そんな軽薄な動機で手に入れた本であったが、読み始めると、一気に私はその装丁の美しさを遥かに凌駕する、まるで昔々のおとぎ話のファンタジーのような世界に惹き込まれていった。
 この異様に発達した文明社会で、知らず知らずにほぼ閉じてしまっていた五感が研ぎ澄まされ、脈々と動き出し、頭の上から爪先まで活き活きとした透明な水が流れ始めたような感覚に陥った。

 著者が幼い甥と一緒に自然観察をしている場面の描写とともに、その自然にふれる大切さが綴られているのだが、その筆致たるや繊細で、何とも詩的なのである。望遠鏡で月の表面観察をしている場面では、渡り鳥の様子を「遅かれ、早かれ、天空の孤独な旅人たちが、暗闇から姿をあらわし、ふたたび、暗闇へと月面を横切っていくのをながめることができるでしょう。」
 また、虫の鳴き声についての描写では、「虫のオーケストラは、春夏から秋の終わりまで、脈打つように夜ごとに高まり、やがて霜がおりる夜がつづくと、か細い小さな弾き手は凍えて動きが鈍くなっていきます。そして、とうとう最期の調べを奏でると、長い冷たい冬の静寂のなかへひきこまれていきます。」一つの生物の生命の終焉を、これほどまでに敬意を表して神秘的に描くことのできる著者の感性に、驚嘆する。

最後に著者は、「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまされることはけっしてないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとにであったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけ出すことができると信じます。」と綴っている。

 著者は環境保護に先鞭をつけた研究者でもありながらも、けっして大上段に、啓発的に「自然を大事に!」と叫ぶのではない。ただただその地球の美しさと神秘に畏怖畏敬の念を持ち、自然とともに生きることが自らの情緒を豊かにし、自らの人生をも豊穣にしていくことだと、静かに語っている。

 「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」
 大人になるにつれて、どこかに置き去りになっていた。今日は、何だか初夏の風がとても心地よい。

  さて、今日は車を置いて、そよ風に誘われるままに近所の小道を歩いてみよう。