特定非営利活動法人
藤沢相談支援ネットワーク

ある日の夢の話。

ここはどこだろう。見覚えがあるような景色。チャイムが聞こえる。先生が何か言っている、あー、いつもの退屈な話だ。「高校の面接では面接官の目を見てしっかり、はきはき、明るく話しましょう」もう、うんざりする。高校生がみんな「先生の目をしっかり見て、明るく、はきはき」していたら、もうそんな学校があったとしたら、窒息してしまいそうで僕は絶対に入りたくない、なんて同じくグランドで退屈そうに砂をいじっている下級生の女の子を眺めながらぼんやりしていた。

 だいたい、明るいことがいいことだなんて、誰が決めたの。人の目も恥ずかしくて見ることができず、手と足が一緒に出ちゃうような緊張しいで、質問だって面接官を目の前にしたら、もう昨日までの模擬練習なんて吹き飛んじゃって、頭真っ白で、黙っちゃう、そんな生徒だって愛おしいし、何も考えてないわけじゃないことぐらい理解できるのが、先生の役割じゃないのかよぉ。。。そんな緊張しいで、恥ずかしがり屋の個性を伸ばすのが教育じゃないのかよぉ。。。もう力尽きて、眠くて眠くて机につっぷした。

 気づいたら、休み時間で、キャンディーとポップコーンがよく似合うあの子の周りにみんな集まっている。いつか、カントの話をあの子にしたら、なにそれ、哲学?ヤダぁ、超まじめじゃん。うけるー。それ以来、あの子とは話すことをやめた。でも、きっとあの子だったら「面接官の目を見てはきはき」応えるんだろうなぁ。先生は、教育界は、あの子ような生徒が好きなんだろうな。

 でも、一度だけ太陽とポップコーンとキャンディーがよく似合うあの子の顔が一瞬で陰り、瞬く間にキラキラした瞳が曇り、今にも泣き出しそうになっていたことがある。教室の片隅でいつもずっと一人で好きなアニメを書いている男の子に向かって、「ねえ、打ち上げ行こうよ、そんな絵なんて書いてないでさぁ。一人よりみんなでいるほうが楽しいじゃ~ん」「誘ってくれてありがとう。でも、僕は一人で絵を書いているほうがいいんだ。だって好きだから。」あの子の敗北感とも言える、その男の子ヘの敵意、憤怒とも言える何とも言えぬ表情を見た。きっと、誰に何を言われても、ばかにされても「だって、これが好きだから」とシンプルに言えてしまうこの目の前の、特に目立つこともない一人の男の子に対する、ある種の、強烈な嫉妬のようなものが発露した瞬間だったのではないだろうか。だって、あの子の心は蓮根みたいにスカスカだったから。好きで夢中になれることなんて一つもなく、スカスカで本当は心は満たされてなかったから。

 

 ねえ、面接官の先生、先生も大変だね。「面接官の目をしっかり見て、はきはき明るく」応えるあの子の心まで明るいとは限らないのよ。また、眠い。。数式ダルいよ。先生。。。

 

 

 にゃーん。いつもの我が家の猫のモーニングコールで目覚めた。朝の木漏れ日がカーテンの隙間から差し込んでいる。あー、見慣れた天井だ。夢の続きを見たい。どうか、アニメが好きな男の子が、今日も静かに一人絵を書き続け、幸せなままでありますように・・・。
  
 さて、コーヒー入れて支度して、今日も仕事へと急がねば。